今日も「あと1回だけ」と思っていた
「そろそろ当たる気がする」
「流れが来てるような気がした」
「もうここまで来たら、出るまでやるしかない」
──そんな感覚、ありませんか?
実際に私も何度も思っていました。 冷静に考えれば勝ち目がないとわかっているのに、「次は当たりそう」と信じて、気づけば財布が空になる。
そんな経験は、とある仕組みがあるからだったのです。
この記事では脳とギャンブルの構造による“勘違いを起こさせる仕組み”を解説します。
- 脳の勘違いを引き起こす様々なバイアスを解説
- サポートを受けたい場合の案内
無意識のうちに行動へとつながってしまう流れを知ることで、「自分が弱いわけじゃなかった」と納得できるきっかけになればと思います。
STEP確認
この記事はギャンブル依存症から抜け出すための「STEP2-2」です。
シリーズの他の「STEP 2」記事もあわせて参考にしてみてください。
- STEP 2-1【パチンコとドーパミンの関係】
- STEP 2-2【続けてしまうのは仕組みのせい】 ←今ココ
- STEP 2-3【ブレーキが効かない】
- STEP 2-4【依存はどう強化される?】
- STEP 2-5【やりたくなる強さの源】
シリーズ全体の流れを確認したい方はこちら。
【結論】「脳の勘違い×ギャンブルの演出」がやめどきを奪っている
ギャンブルは脳の「判断ミス」を誘発するように仕組まれています。
その代表が“もう一回だけ”と思わせる錯覚です。
それは「自分が悪い」わけではなくバイアス(脳の仕組み)と胴元が仕掛けた設計の掛け算で やめられなくなるよう仕向けられています。

バイアスは時に正しくないことを絶対正しいと思い込んでしまうことに繋がります。



バイアスは脳の仕組みであり、勘違いしやすいように作られています。人は嫌なことから逃げ出しやすいなど、本能的に決まっているのと同じです。
ここからはまず、よくある状況と心理的バイアスをいくつか解説していきます。
【補足】この知識の必要性
ギャンブル依存症は薬や病院に行くだけで治るものではないと言われています。
その理由が結局のところ“本人がやめたいと思わないとやめにくい”からになります。
そのため依存症の治療では認知行動療法と呼ばれる治療が有効とされています。
今回の記事ではこの認知行動療法の一つとして私が実際にためになったと感じ、ギャンブルに対する思いが変わった知識をみなさんにも知ってもらうことを目的としています。
【勘違い①】「ここまで来たら当たるはず」|サンクコスト効果


あなたはもうすでに何万円も使っている。
だからこそ「今さらやめたらもったいない」と感じてしまう。
これは、心理学で言う「サンクコスト効果」と呼ばれ、 失ったものを取り返そうとして、冷静な判断ができなくなるバイアスです。
ギャンブルでは、この感覚がとても強く働きます。
たとえば「今日はこれだけ」と決めていたのに…
「もう1,000円だけ!」
「あとワンプッシュ!」
「次の切りがいい回転数まで回す」
「よく300回転で当たるからここまで」
やめない理由を自分で作って続けてしまう。これが積み重なって、やめられなくなります。



設備でも「ここまで分解したなら、最後までやり切ろう」って作業、実は危ない。作業時間が無駄に感じて止めれなくなるんですよね。やめ時の見極めって大事です。
【勘違い②】「流れが来てる気がする」|認知バイアス
ギャンブルの当たりは、基本的にランダムです。 でも不思議なことに、当たりが集中すると“波”や“流れ”があるように錯覚します。
これは、「認知バイアス」と呼ばれ、脳が無意識に偶然の出来事に「意味」や「予測可能性」を与えようとするバイアスです。
判断や意思決定において、客観的な規範や合理性から逸脱する、つまり自分の経験や先入観で偏った根拠のない判断をしてしまうことです。
たとえば
「今日は引きが強い」
「この台、今は調子がいい」
「ラッキーカラーのおかげだな」
こうした根拠のない錯覚が、やめられない原動力になるのです。
ギャンブルの当たりはランダムなのに、脳がそれを「流れ」や「調子の良さ」と認識してしまう。これによって、ギャンブルの結果が「勝てる」や「必然」として誤って解釈されることになります。
実際には、胴元側が演出として“出ているように見せる波”を作っているだけ。 でも脳は「今だ!」と興奮してしまいます。



設備の修理でも、本当はランダムなのに、規則性があるように見えると、判断を間違えます。脳にも“似た誤作動”があるんです。
【勘違い③】「そんなに負けてる気がしない」|快感学習
ギャンブルでは、負けた金額よりも楽しんだ記憶の方が印象に残りやすくなります。
たとえば
「あの時あれば引ければ、惜しかった」
「このタイミングであの演出が熱かった」
「負けたけどあそこで止めとけば勝っていた」
といった印象の方が記憶に残りやすくなります。
これは「快感学習」と呼ばれ、体験した出来事が快楽と結びつくと、その記憶が強化されやすくなるためです。
つまり、
- 小さな当たりも強く記憶
- 負けた分は“ぼやけて忘れる”
この偏った記憶の積み重ねで、「そこまで負けてない感覚」になってしまうのです。



トラブル履歴も、“軽い異常”ばかり覚えてると見えにくい重大な故障を見落とす。人の記憶も同じで、印象でズレるんです。
【勘違い④】「今やめたら“確定負け”になる」|損失回避バイアス
ギャンブルでは、負けている時、勝負は終わってみないと分からない続けて、強制的に終わるまで自分で止められなくなる場合があります。
これは「損失回避バイアス」と呼ばれる心理効果で、人は得をするよりも、損をしないことのほうを優先するというバイアスです。
たとえば
「今ここでやめたら、“負け”になってしまう」
「予定していた1万使ったけど、残り1万で取り戻せばいい」
「まだ4時間あるから取り戻せる」
「取り戻すだけでいい」
そんな気持ちになったことはありませんか?
私たちは「100円得する喜び」よりも「100円失う痛み」のほうを2倍以上強く感じると心理学の研究でも言われています。
だから──
- 「もう1回やれば戻せるかも」
- 「今やめたら負け確定だから、あと少しだけ…」
といった心理になり、なかなかやめられなくなってしまうのです。



「今ここで止めたら損だ」と思って走らせ続ける設備、でも本当は一回止めて冷却したほうが逆に効率がいい。人も機械も、“冷静な判断”が命です。
【勘違い⑤】「損失が確定しているのに続けてしまう」|コンコルド効果
ギャンブルでは一般的に負けるように出来ています。つまり長期的に見れば「損失が確定している」ということ。
これはコンコルド効果と呼ばれる心理効果で、損失が確実に見えていても、これまでに投入した費用や労力を惜しんで、その投資を継続してしまう心理現象のことです。
たとえば
「今までのギャンブルの負け総額○○〇万を取り戻したい」
「ギャンブルやめてもいいけど今までの時間とお金がもったいない」
「ここでやめたら全部無駄になってしまう」
「ギャンブルをやっていた自分が間違っていたと認めたくない」
「勝てばギャンブルをやっている自分は無駄じゃない」
心のどこかにこうした気持ちがあるのかもしれません。
損失回避バイアスと似ていますが、違いとしては冷静に見たら損失が確定しているという点です。



ギャンブルなのだから負けは確定していないだろ!
そう思うかもしれませんが、お店が儲かるわけですのでお客はお金を支払うわけです。
そしてお店は楽しませるというサービスを提供しているわけで、それに対する対価を払っているという仕組みですので基本的に損失が確定しているわけです。



演劇を見に行って、それを楽しむサービスと本質は同じ!ギャンブルは参加型で、一握りの人が総取りする椅子取りゲームみたいなもの。
ギャンブルは「やめにくい設計」になっている
ギャンブルは単なる運試しではありません。
実際パチンコやスロットのようなギャンブルの舞台は、
プレイヤーが長期間プレイすればするほど、負けるように設計されています。
そしてその設計の中で私たちの脳がついつい引き寄せられるのは、
「期待感」を維持させる仕組みが存在するからです。
ここからは期待感がどのように生まれるかを解説していきます。
【期待感①】当たりが多い


パチンコとスロットは大当たり確率がそこそこ高く、1日あれば数回は当たります。
そしてこの当たりが軽いことで大当たりを常に意識して期待できること。
そして大当たりの報酬にランダム性が高いことがまた期待感を上げる効果があります。
たとえば
- 宝くじ → 当たるわけないけど当たればラッキー
- パチンコ → 確率的には当たっておかしくない!
- 競馬 → オッズが2倍だから当たれば○○円
- パチンコ →大当たりで確変だからどこまで伸びるか分からない!
このように期待感が公営ギャンブルより高まる仕組みになっています。
- コンスタントに当たるから勘違い③快感学習でそこまで負けてない感覚に。
- そこそこ当たることで波が生まれ“勘違い②認知バイアス効果”が有効になります。
【期待感②】演出による「勝てる気がする錯覚」
ギャンブルの魅力は、ただ単に確率に頼るわけではありません。演出が重要な役割を果たします。
たとえば各種リーチの演出で…
「当たりやすいゾーン」
「熱そうな演出」
「赤保留」
「金文字やカットイン」
このようなものが出てきますが、実際にはそれが出玉に直結するわけではありません。
これらの演出が、“出ているように見せる”ための仕組みです。
脳はそれを
「おしかった」
「流れが来ている」
「次こそは当たる」
と錯覚してしまいます。
波があるからこそ“勘違い②認知バイアス効果”が有効になります。
【期待感③】脳を支配する大当たり確立50%
脳は、“次は当たるかも”という予想し、期待感に強く反応します。
この期待感がドーパミンの分泌を促し、脳が報酬を期待する状態に引き寄せられます。
もっとも効果的にドーパミンを分泌させる大当たりの確率は50%ほどだということが研究で明らかにされており、毎回100%の確定演出のみより50%の方が依存しやすくなるということです。
たとえば
「魚群リーチ熱い!」
「赤保留きたぁ!」
このような状態で当たればそのままドーパミンが大量に分泌。当たらなければイライラしますが期待していた分だけドーパミンは分泌されていましたので、100%よりどきどきする頻度と、演出中の当たるかな当たらないかなと、どきどきする時間、そして当たった時の喜びが増し総合的に分泌量が大量となります。
1つの大当たりで3度美味しい仕組みに作られているというわけです。
この状態が続くことで、
「もう少しだけ」
「あと一回」
という衝動を引き起こし、ギャンブル行動を繰り返してしまうのです。
少しでも大当たりすることで“勘違い③快感学習”が有効になります。



そもそも“壊れやすい設計”、長く動かすほど壊れるのは当然。脳が暴走状態になって、やめれなくなるってそういう設計ということです。
【正しい確率】パチンコやスロットの“確率設計”


ここまで勝てる錯覚を解説してきましたので最後に負ける現実を解説していきます。
負けは確定している
パチンコやスロットの当たりは、基本的にランダムですが、実際に還元率は約80~90%であり、長期間プレイすればするほど損をする仕組みになっています。
単純にこの数値だけで平均的に負けることは確定します。
還元率について
経営側が取り分を取った後にプレイヤーへ分配する%の事を還元率と言います。
還元率(払い戻し)という言葉を聞いたことがある方は多いのではないかと思いますが還元率とは平均してプレイヤーの私たちが得られる利益率になります。
簡単に言うと100賭けて、何%が手元に返ってくるのかの割合です。
還元率の錯覚
10000円を使ったら8000円かえってくるのがパチンコの還元率ですが、これは財布から10000円使って、一日打って8000円だったから80%の還元率通り…というわけではありません。
パチンコの還元率
細かい説明は省きますが、1日パチンコを打っていた場合
投資:130,000円(32,500玉)
回収:104,000円(26,000玉)
差:−26,000円(−6,500玉)
還元率(玉ベース):26,000 ÷ 32,500 ≒ 0.8 → 80%
つまり「−26,000円」程度が還元率80%の結果になります。
ですのでもし一日中遊戯をしていて財布からマイナス2000円という結果は、130000-128000=2000となり、還元率98%程度ということになります。
※超ざっくりした計算です。
スロットの還元率
スロットの場合は上記パチンコと違ってしっかり計算したので大体あっているはずです。(ハナハナで計算したので台によって違いますが)
遊戯台は1台1台設定があり、その違いによって下記還元率の差が生まれます。
設定1
10600円(払い戻し) ÷ 28000円(投資) = 負け額17400円 【37% (還元率)】
設定6
55000円(払い戻し) ÷ 12000円(投資) = 勝ち額43000円 【460% (還元率)】
設定6の確率
パチンコ・スロットの還元率である80%程度を維持して設定6を1台入れるためには設定1が9台必要になります。
つまり単純に設定6に座ろうと思うと1/10の確率になります。
1回あたりの負ける金額
1回あたりどれだけ負けるかの期待値は下記になります。
項目 | 数値 |
---|---|
1回あたりの期待値 | -11,360円 |
10回やったときの期待値 | -113,600円 |
勝てる確率
10回で設定6を引ける確率を計算してみました。
当たり回数 | 確率(%) | 損益(円) |
---|---|---|
0 | 34.87 | -174000 |
1 | 38.74 | -113600 |
2 | 19.37 | -53200 |
3 | 5.74 | 7200 |
4 | 1.12 | 67600 |
5 | 0.15 | 128000 |
6 | 0.01 | 188400 |
7 | 0 | 248800 |
8 | 0 | 309200 |
9 | 0 | 369600 |
10 | 0 | 430000 |
10回以内に設定6を引ける確率は100%-38%=62%程度です。
勝つためには10回以内に設定6を3回以上引く必要があり、その確率は約6%程度になります。
還元率は業界全体の結果
さらに言うとこの還元率はあくまでも業界全体での数値ですのでそもそも行ったその店で設定6が存在しないなんてこともあり得ます。
スロットの場合でパチンコは違うだろうと思うかもしれませんが、還元率が一緒な以上は考え方は一緒です。ただそこでパチンコは還元率減らしてスロットに良い設定入れようなど調整をしているかもわかりません。
またこの還元率は業界全体の利益を計算した結果、80~90%程度という結果でありす。
確かなことは数値だけ
どちらにせよ還元率が数値として出ている以上、ギャンブルを続けていけば、最終的にほぼ必ず負けるという仕組みであることに変わりはありません。
負けているからこそ“錯覚①サンクコスト効果”や“錯覚④損失回避”が有効になります。
ギャンブルの負け額については下記記事で詳しく解説していますので良ければご覧ください。
まとめ:「脳の錯覚 × 負ける舞台」が続けさせている
- やめられないのは、あなたの意志の問題じゃない
- 「勝てる気がする」勘違いは、脳のバイアスを利用したギャンブルの仕組み
- トータルで負けても、“快感の印象”で気づきにくい
- ギャンブルは長くやるほど負けてハマる“仕組み”になっている
次回(STEP2-3)
次は「頭ではわかっているのにやめられない」その仕組みを解説します。
関連記事
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- STEP 2-2【続けてしまうのは仕組みのせい】 ←今ココ
- STEP 2-3【ブレーキが効かない】
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- STEP 2-5【やりたくなる強さの源】
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「この世界は、生きづらいものだ」と思っていた過去があります。
でも今は、そう感じていたのは“思考の回路”が乱れていただけだったんだと気づきました。
このサイト「ゆるやめ」では機械保全士として培った現実重視の“視点”をベースに、脳科学や心理学の知識そして私自身の体験を交えて、我慢ではなく緩やかな仕組みでやめるヒントをお届けしています。
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参考・出典
- 厚生労働省,ギャンブル依存症の理解と相談支援の視点,2025/4/21
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000633402.pdf - 厚生労働省,依存症対策,2025/4/21
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html - 筒井健一郎, & 渡邊正孝. (2008). 報酬の脳内表現. 生理心理学と精神生理学, 26(1), 5-16.
https://doi.org/10.5674/jjppp1983.26.5