ギャンブルは意思ではなく、無意識にやりたくなる
「もうやめよう」と決めたのに、気づけばまたホールに足が向いていた──。
そんな自分に、がっかりしたことはありませんか?
でもそれはあなたの意志が弱いわけではありません。
脳が”自動モード”に切り替わっているだけだったのです。
この記事ではギャンブルがなぜ自動化されてしまうのか、その原因と仕組みについて解説します。
STEP確認
この記事はギャンブル依存症から抜け出すための「STEP2-4」です。
単独でも読める記事になっていますが全体の流れを確認したい方は下記リンクへ進みください。
- STEP 2-1【パチンコとドーパミンの関係】
- STEP 2-2【続けてしまうのは仕組みのせい】
- STEP 2-3【ブレーキが効かない】
- STEP 2-4【依存は自動化されている】 ←今ココ
- STEP 2-5【やりたくなる強さの源】
シリーズ全体の流れを確認したい方はこちら。
【結論】生活水準が上がるようなもの
ギャンブル依存症と聞くとやっかいな症状ですが、これは日常生活で例えるなら生活水準が上がっているようなものです。
日常生活では
移動するのに電車がある、食事をするのにコンビニがある、このような便利な仕組みが生活水準を上げています。
ギャンブルでは
手軽にやりやすい場所にある、手の届く価格設定、そしてこのような仕組みが「快楽の水準を上げる」
そして上がった水準は維持しないと「今更出来ないのは不便」だと思い不快になります。不快を解消するためにまた快楽を求めて、手軽にやれるギャンブルに手を出します。
そしてこのような仕組みが整った環境がトリガーやスイッチと呼ばれるきっかけを作り、ギャンブルがやりたくなる頻度がどんどん増えていきます。
ギャンブルをやめるにはギャンブル衝動が起こるきっかけを減らし、この「自動化」を防ぐことが重要になります。
【補足】この知識の必要性
ギャンブル依存症は薬や病院に行くだけで治るものではないと言われています。
その理由が結局のところ“本人がやめたいと思わないとやめにくい”からになります。
そのため依存症の治療では認知行動療法と呼ばれる治療が有効とされています。
今回の記事ではこの認知行動療法の一つとして私が実際にためになったと感じ、ギャンブルに対する思いが変わった知識をみなさんにも知ってもらうことを目的としています。
【理由①】脳が“勝手に連想”する「自動思考」

私たちの脳には「報酬系」と呼ばれる仕組みがあります。
これ、何かを達成したとき・快感を得たときになどに働く回路で、脳内にドーパミンという物質が分泌されます。
そしてこのドーパミンにより脳が快感を覚えてしまうと、日常の中のちょっとした“きっかけ”でその記憶が呼び出されます。
このとき起きているのが、「自動思考」です。自動思考は瞬間に浮かぶ考えで何かの出来事や状況に遭遇した際に、自動的に頭に浮かぶ考えやイメージ。
たとえば──
- ホールの前を通る
- 給料日で口座にお金が入った
- SNSで誰かの当たり報告を見る
- 仕事で嫌なことがあった
こういった場面で、脳は無意識に「また勝てるかも」「気分を変えたい」といった“自動思考”を生み出します。
これはあなたが「考えている」というより、脳が勝手にそう“連想している”状態です。

配線に信号が通れば、条件反射みたいに反応する。思考もすでに配線されていて反射的に出ているだけです。
【理由②】脳が“学習する”「習慣化」
私たちの脳は、新しい行動を(意識的に)繰り返すことで、それをネットワークとして学習し、何度も繰り返される行動を「重要な動き」として記憶することで、「習慣」として定着させます。
つまり、繰り返し行動するたびに脳はその行動を強化していくため、最初に意識的だった行動がだんだん無意識的なものになります。
そして行動が反復されるとその神経回路が強化され次回その回路が再利用されやすくなり「習慣化」します。
たとえば:
- 仕事帰りにホールの前を通る
- 「ちょっとだけ」と立ち寄る
- 台に座ると安心する
この流れを何度も繰り返すことで、脳の中に”回路”ができてしまう。
これがいわゆる習慣化です。



機械がプログラムされた優先順位通りに動くのと同じように、脳も強化された回路に従って反応するためです。
【理由③】脳の「自動化」
上記の習慣と自動思考がセットになることで、脳はその行動をいちいち考えなくても(無意識的に)実行できるよう、「自動化」していきます。
この「自動化」が進むことで依存的な行動が更に強化され、トリガーをきっかけに「自動運転モード」のスイッチが入り、ギャンブルをやめるのがどんどん難しくなります。
自動運転モードの流れ
- トリガー(きっかけ)
- 自動思考(連想・記憶の再生)
- 感情(期待・不安・逃避など)
- ドーパミン分泌(動機づけ)
- 行動(実際に動く)
- 習慣化(何度も繰り返されて“強化”される)
状況(きっかけ) | 脳の反応(自動思考) | 感情の変化 | 行動 |
---|---|---|---|
ホールの前を通る | 「今日はいけそう」 | 期待感 | 足が向く |
給料日 | 「ちょっとだけなら」 | 気が緩む | 台に座る |
SNSの当たり報告 | 「自分も当たるかも」 | 焦り・興奮 | ATMへ向かう |
嫌なことがあった | 「気分を変えたい」 | イライラ・逃避欲 | スマホで台探し |



工場でも生産数が少ない工程は簡易設備で手動生産しますが、生産数が多く繰り返し生産する場合は自動化します。人間の脳も同じ。”よく使う流れ”はどんどん自動化されていくんです。
【理由④】習慣と自動思考は”セット”で依存を強化する
ここが重要なポイントです。
- 習慣化 → 繰り返された行動パターンが無意識で実行されるようになる
- 自動思考 → 習慣の流れの中で、反射的に浮かぶ思考
つまり上記のルートで分かる通り習慣化された行動ルートの中に、自動思考が組み込まれているのです。
習慣化によって強化されるのはここ!
[トリガー → 自動思考 → 感情 → 行動]の一連のルート
このルート全体が、何度も通ることで“信号が通りやすくなる”=脳の回路が太く・早く反応するようになります。
そして行動のハードルがどんどん下がり、 意思とは関係なく動き出す脳の自動化が作られていきます。
強化されて快楽の水準がどんどん上がっていく
同じ快楽はどんどん飽きていきます。
飽きた結果より強い快楽を求めるようになり、便利な暮らしを望むように求める水準がどんどん上がっていき、そして依存が進行していきます。
上がった水準は下げられない
便利な暮らしと同様で、一度手にした、体験した快楽を手放すことはなかなか難しいものです。
今更コンビニや飲食店、スーパーマーケットの無い暮らしには戻れないでしょう。
ギャンブル依存症も同様で、一度味わった快楽を手放すことを脳は良しとしません。
いつしかそれが当たり前になる
上がった水準に慣れると、快楽が欲しいというより快楽は手軽に手に入って当たり前の状態となり、水準を下げることは「不快感」を感じるようになっていきます。
【理由⑤】依存のスイッチが作られていく
ギャンブル依存症になるとトリガーやスイッチと呼ばれるきっかけでギャンブルがやりたくなります。
ここまで説明した習慣化と自動思考のセットで強化され自動化された回路の起動条件、それがスイッチになります。
たとえば
- 仕事帰りに疲れて、とりあえず行くかとホールに入る
- → 疲れ【トリガー】+帰宅ルート【トリガー】=【スイッチON】
- 何かにイライラしたあと、無性にパチンコで発散したくなる
- → ストレス【トリガー】+時間に余裕がある【トリガー】=【スイッチON】
流れとしては下記になります。
トリガー(1個以上) → スイッチON → 脳が自動で快感を欲求 → ギャンブル衝動!!
そしてこのギャンブル衝動=ドーパミンが分泌している状態ということです。
スイッチが入れば衝動が起動する
つまり私たちの意志とは関係なく、トリガーが複数あり、“報酬が貰えるかもしれない”と脳が無意識に予想した時点でスイッチが入る。そしてドーパミンは分泌されてしまうということになります。



本人にその気が無くてもスイッチが入ると強制的にドーパミンが分泌されてギャンブル衝動が高まる流れになるよ!
【理由⑥】だからやめにくい!無意識 vs 意識のエネルギー構造


依存によって強化された“自動運転モードの回路”は、
ほとんど無意識で作動します。
実は、私たちの行動の90%以上が無意識のうちに行われているとも言われています。つまり意識して行えるエネルギーは10%程度。
10%の「意識的な努力」で逆らおうとすると──
ギャンブル衝動は無意識なので対抗するには想像以上に大きなエネルギーを必要とするのです。
だから、頑張って止めようとしてもなかなか止まれない。
それはあなたのせいではなく、「脳の構造と働き方の差」なんです。



たとえるなら、自動で高速回転している巨大なコンベアに逆方向から立ち向かうようなもの。頑張って停止出来たとしても数回が限界かもしれません。



それならまずはコンベアの整備をすることが先決だね
【結論】依存行動を抑えるためには「自動化」を防ぐことが重要
そして上がった水準は維持しないと「今更出来ないのは不便」だと思い不快になります。不快を解消するためにまた快楽を求めて、手軽にやれるギャンブルに手を出します。
そしてこのような仕組みが整った環境がトリガーやスイッチと呼ばれるきっかけを作り、ギャンブルがやりたくなる頻度がどんどん増えていきます。
ギャンブルをやめるにはギャンブル衝動が起こるきっかけを減らし、この「自動化」を防ぐことが重要になります。
【まとめ】
- 脳は、繰り返される行動を「重要な動き」として記憶し、自動化します。
- ギャンブルのように強烈な報酬がある行動は、脳内に太い回路を作りやすく、「クセ」になりやすい。
- 自動思考と習慣化がセットになることで、無意識のうちに行動が発動する「依存の回路」が強化されます。
- エネルギーの90%は無意識が支配している
- 対策無しでやめるのは無意識のエネルギー90%に、意識のエネルギー10%で立ち向かっているようなもの



私がギャンブル依存症が機械に似ていると言っている理由はこの無意識にあります。
無意識=自動運転で、自分の体を動かしているのは自分だと思っていても、実は“自動プログラム”が作動してるだけということです。



機械を無理矢理止めるエネルギーが人にはないってことだね!



そうです!だからこそ我慢ではなく、自動運転している機械を整備して制御できるように改造していきましょう!
次回
次はギャンブルをやりたくなる強さの源である不快感について解説します。
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- STEP 2-2【続けてしまうのは仕組みのせい】
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- STEP 2-5【やりたくなる強さの源】
シリーズ全体の流れを確認したい方はこちら。
このサイトが大切にしていること
「この世界は、生きづらいものだ」と思っていた過去があります。
でも今は、そう感じていたのは“思考の回路”が乱れていただけだったんだと気づきました。
このサイト「ゆるやめ」では機械保全士として培った現実重視の“視点”をベースに、脳科学や心理学の知識そして私自身の体験を交えて、我慢ではなく緩やかな仕組みでやめるヒントをお届けしています。
よければ他の記事も覗いてみてくださいね。
参考・出典
- 厚生労働省,ギャンブル依存症の理解と相談支援の視点,2025/4/21
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000633402.pdf - 厚生労働省,依存症対策,2025/4/21
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html - 枝川義邦, & 渡邉丈夫. (2010). 行動・学習・疾患の神経基盤とドパミンの役割 (Doctoral dissertation, Waseda University).
https://waseda.repo.nii.ac.jp/record/27235/files/KotoKenkyujoKiyo_2_Edagawa.pdf